僕が住んでいた大学生寮にはケーブルテレビが映る畳部屋があって、Hさんという先輩が寝転んで一日中MTVを観ていた。上京したての僕は、大学生とはそういうものだと思い、一緒にMTVを観ていた。同年Hさんは留年し、4年後僕も留年した。

学ぶとはまねることだという。 僕が大学院生の頃はまだ黒板の時代で、確率論からCochranの定理までを、大橋靖雄先生の板書で教わった。疫学を学ぶ手段はRothman and GreenlandのModern Epidemiologyくらいしかなかった。帝京大学で受けたRothman先生の講義も良かった。僕のModern Epidemiologyは彼のサイン入りである。僕にとって、モデルは大橋靖雄先生とRothman and Greenlandだった。

京都大学大学院医学研究科では、パワーポイントを使った講義が中心である。時代の変遷もあるが、医学と統計学では効果的な学習手段が異なるという面もある。最新の医学知識を得るにはパワーポイントが効率的であろう。一方、京都大学の理学部には板書がまだ残っているそうである。

ひとつだけ、統計学を学ぶ皆さんに伝えたい。モデルにするなら海外の一流の研究者がいい。教科書には彼らの思考がそのまま書かれている。皆さんには教科書を手に取ってもらい、僕の講義より一流の文章から学んで欲しい。

福原俊一先生の本棚にModern Epidemiologyを見つけたとき僕はなんだかうれしくなった。

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一般の方に向けて。

統計を学びたい方には、統計検定を利用することを奨める。なぜなら問題の質が高いからである。小学5年~中学生は4級、高校生~文系大学生は3級、理系大学生は2級が目安である。

公衆衛生大学院(SPH)では、医療統計学に加えて、疫学、環境科学、保健医療管理、行動科学・医療倫理学などを学ぶ。以下の書籍は、読み物としても薦められる。SPHを受験する際にも読んでおく価値がある。

  1. Medicine: 医学を変えた70の発見. Bynum W, Bynum H. 東京: 医学書院; 2012
  2. 抗うつ薬は本当に効くのか. Kirsch I. 東京: エクスナレッジ; 2010
  3. 宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ. 佐藤俊哉. 東京: 岩波書店; 2005
  4. 統計学とは何か ―偶然を生かす. Rao CR. 東京: 筑摩書房; 2010
  5. 統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀. Salsburg DS. 東京: 日本経済新聞出版社; 2006
  6. 佐々木敏の栄養データはこう読む! 佐々木敏. 東京: 女子栄養大学出版部; 2015
  7. 環境疫学情報のリスク・リテラシー. 山崎新. 京都: 京都大学学術出版会; 2012
  8. 放射線必須データ32 被ばく影響の根拠. 田中司朗, 角山雄一, 中島裕夫, 坂東昌子 編. 大阪: 創元社; 2016
  9. 日本の医療と介護―歴史と構造、そして改革の方向性. 池上直己. 東京: 日本経済新聞出版社; 2017
  10. 新医療経済学. 井伊雅子, 五十嵐中, 中村良太. 東京: 日本評論社; 2019
  11. 誰の健康が優先されるのか―医療資源の倫理学. Bognar G, Hirose I. 東京: 岩波書店; 2017